さて…
わたくしは、猫ちゃんを起こさないように…ゆっくりと、歩み始めました…。
月の美しい場所で御座いまして…
その月を眺める為の…月見堂がお寺の境内に御座います。
秋の月の美しい季節まで…その、月を愛でる為の小さな建物は、開け放たれ、そこに上がり下界の風景を楽しんだり、空を見上げたりすることが出来ます。
さり気なく置かれた、電気ポット…急須(きゅうす)に湯呑茶碗…そんな、心遣いが遠方から訪れた方の旅情を、また…和ませ…穏やかな心にさせてくれるのです。
その月見堂の屋根もしっかりとしたかやぶきの屋根で…
下から見上げますと…その、建物の木の深い暗色の色合いと見事な造形を成し…
優しさと柔らかさと…それに相反する…重厚な空気感を感じます。
それは、絶妙なバランスで組み上げて出来たもので御座いました。
木の固さと…萱(かや)の繊維質の素材の違いが美しく融合した証しでも御座いましょう。
ふっと…
わたくしは…
『M-♂の様だわ…。』
と感じました…。
茅葺屋根は通気性・断熱性に優れる、雨音が小さいなどの長所を持ちます…
それが、茅葺(かやぶき)の良点で御座います。
そして…彼から、常に感じる風もまた、そんな心地よさを感じさせてくれます。
それは、わたくしの未熟な感性に絶えず、刺激を与え、くすぐって下さいます。
そのことは、彼が今まで歩まれてきた人生の色々な経験値を持ち、人としての厚みがあると言うことなのでしょう…
しかし、それは、けっして近寄りがたいものではなく、柔らかで、たおやかなお心持ちでおられますから…
彼から受ける風は、とても、懐かしく心地の良いもので御座います。
そんな…方です…。
M-♂は…。
…彼と関わった方たちは、知らず知らずのうちに、自分の気持ちも風遠しが良くなり…
気持ちに、ゆとりが出来るのです。
心にインターバルを作ることが出来るのです。
そして、その、ゆとりの出来た空間に流れ込んだ空気を温め…心に余裕を感じさせて、窮屈な心を消し去って下さいます。
時折、心に降りしきる…哀愁を感じる雨音も…
静かに吸収し、それを、逆に、なくてはならなかった水分に変えて下さる方です…。
彼に関わる方は…きっと、次のステップを踏むことが出来る…
わたくしは、そう感じています。
勿論…わたくしも、その、ひとりにほか御座いません…。
茅葺の屋根の層を下から眺めながら…そんな、彼の…ことを…感じていました…。
その場を離れ…また、砂利を踏んでおりました…
すると私は、気配を感じました…
足元に一陣の風が吹き…
周りの草花を同じ方向に揺らしていました…。
わたくしは、その時…自分の【
影】が眼に入ったので御座います。
確かに…それは陽の光が作ってくれた自分自身の
影で御座いました。
しかし…わたくしには…その
影から感じる気配がありました…。
わたくしの耳に……高い木の上から蝉の声が降ってまいります…。
そしてその声を聞きながら、夏の最後の陽炎が、足元から立ち上っていくのを確かに感じていました。
わたくしの…丁度、右横にゆらゆらと…白い小さな砂利の上で、ちらちらと揺れながら、その≪
カタチ≫を造形してゆくので御座いました。
わたくしは、しばらく、その様子を…魅入られてしまったかの様に、じっ…と見詰めていたので御座います。
わたくしの、右隣に、何か…とても、温かな空気を感じていたので御座います。
それは、眼に見えない…確かな≪
カタチ≫になってまいったので御座います…。
そう…私の右横の空気は除除に、質量を持ち始めていました。
わたくしは…カメラを左手に持ち…
その…揺れる…陽炎に空いた右手をかざしていたのです…。
すると…
わたくしの手の先に…
陽炎の揺らめきの中に…
感じるものが…御座いました…。
こみあげてくるものを…
わたくしは隠すことなど…出来はしませんでした…。
すっ…と…
一筋の涙が流れて…頬に落ちました…。
わたくしが…陽炎の先に…見つけた
風景…
そこに…彼が…M‐♂が…そこにいたのです…。
そこに…
わたくしが…
その何日か前のに…わたくしが≪見た≫
風景と重なったので御座います。
彼の写真を拝見し、触発され…
彼にお逢いしたいと…今日…飛び出した、彼の≪
風景≫と…バッティングしたので御座いました。
数枚の写真の中でも…
特に心に惹かれたものが御座いました。
それは…
どこかの…公園の水飲み場で御座いましょうか…。
良く見ると、そこに…水飲みの蛇口の側に…一匹のトンボが止まっている御写真…でした…。
そのお写真は…
とりわけ…優しく、温かく…柔らかな陽の光を感じるお写真だったので御座います。
そっと…触れて、蛇口を回したくなるような…
でも…一匹のトンボの邪魔をしたくないような…
一枚のお写真から、自分の次の行動を考えさせてくれるような…
不思議なお写真で御座いました。
本当は…直ぐに…M-♂に拝見した時にお写真の感想を伝えしようと思ったので御座います…。
ところが…出来ませんでした…。
言葉を失うほどの≪
想い≫が…わたくしの中に芽生えておりました…。
それで…
わたくしは…
言葉に出来ない想いを…≪
カタチ≫にする為に、カメラを片手に外に飛び出していたので御座いました。
どうしても、この≪
キモチ≫を、御伝えしたい…
それが…わたくしの、この≪小旅行≫の、きっかけで御座いました。
今…
私の見ているのは…
彼の写した、水飲みとは…形状も違うものかもしれません…
でも…
でも…
カタチは違っても…
わたくしは、そこに…彼をM-♂を感じたのです…。
そっと…
わたくしは…
その水飲みに手を添えました…
ひんやりとした石の感触が、わたくしの心をしっかりと覚醒させてくれました…。
あえて…
涙を拭わずに…その、涙のフィルターを通して、撮った…写真になりました。
彼と…同じモノを感じたい…
彼を…写したい…
そう想いながら…シャッターを切った…
わたくしの…写真…です…。
たとえ…遠くに離れていても…
わたくしは…彼を…感じているのです…。
誰も…
いない…
境内…
そこにいるのは…
わたくしと…M-♂…ふたりきり…でした…。
To be continued…